本研究においては、てんかん欠神発作に伴う細胞内情報伝達系の変化を転写調節因子であるcyclic AMP responsive element binding protein(CREB)および関連因子の動態を中心に2種の欠神発作モデルマウスにおいて検討した。薬物誘発モデルであるγ-ヒドロキシ酪酸(GHB)モデルマウスおよび遺伝的モデルであるlethargic(lh/lh)マウス大脳皮質および視床における核内cyclic AMP responsive element(CRE)結合活性は、各々のコントロールマウスに比較し部位特異的な上昇が認められた。モデルマウス脳各部位におけるCREBの発現量はコントロールマウスとの間に差がなかったがリン酸化CREBは増加していた。Lethargic(lh/lh)マウス大脳皮質および視床においてはCRE結合活性に関与するCREB binding Protein(CBP)の増加傾向も認められた。また、lethargic(lh/lh)マウス視床においてCREB/activating transcription factor(ATF)ファミリーの一因子で小胞体ストレスに関連しているATF6の減少傾向が認められ、ATF6とともに小胞体ストレスの指標であるglucose-regulated protein 78(GRP78)の有意な減少も認められたが、小胞体量には変化が認められなかった。GHBモデルマウスにおいては脳のいずれの部位においてもCBP、ATF6およびGRP78の変化は認められなかった。以上の結果よりてんかん欠神発作に伴うCRE結合活性の上昇にはリン酸化CREBが関与していることが明らかとなった。また、lethargicマウスにおいてはCBPの増加も関与しているものと推察された。さらに常に発作を発現しているlethargic(lh/lh)マウスでは発作発現により小胞体ストレスが負荷されている可能性が示唆された。
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