研究概要 |
がん細胞におけるα3β1インテグリンの異常な発現が,がんの浸潤・転移能に影響を与えていることが明らかにされている.本研究においては,この細胞接着分子の発現制御の機序を明らかにする目的でマウスインテグリンα3サブユニット遺伝子の5'上流のDNA断片を単離し,この領域のプロモーター活性をルシフェラーゼ法により解析した. 【方法】マウス染色体DNAライブラリーよりクローニングしたα3インテグリン遺伝子の5'上流断片(exon1の上流約4kb)をルシフェラーゼ遺伝子を含むpGL3-basicベクターに組み込んだ.また,この上流配列を5'側から段階的に欠失させたものおよび変異体を作成した.作成したプラスミドを種々の腫瘍細胞株ヘリポフェクション法によりトランスフェクトした.37℃で48時間培養し,細胞溶解後ルシフェラーゼ活性を測定しプロモーター活性を評価した. 【結果と考察】(1)単離した4kbの上流配列を組み込んだレポータープラスミドを種々の培養腫瘍細胞株に導入し,そのルシフェラーゼ活性を調べたところ,α3インテグリンの発現レベルに相関した活性が認められ,この領域にプロモーターが存在することが示唆された.(2)4kbのDNA断片を段階的に欠失させた各種デリーションのプロモーター活性を比較した.その結果exon1の上流約0.5kbの領域(Sal I/Sac I)がα3インテグリンの発現に重要であると考えられた.さらに,この0.5kb DNA断片を約100bpずつ欠失させたデリーションを作成し活性を調べたところ,exon1の上流約200〜300bpの間に転写調節領域の存在が示唆された.また,この領域にEts, Myo D/E-box binding transcription factor, Sp1,GATAなど様々な転写因子結合コンセンサス配列の存在を確認した.これらの転写因子群の結合配列への変異の導入実験より,Etsがん原遺伝子産物が転写調節に重要である可能性が高いと考えられた.
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