研究課題
本研究計画の平成14年度までにおいて、我々は脳内に存在する神経幹細胞が平滑筋細胞や内皮細胞に分化し血管を形成することをin vitroで明らかにした。神経幹細胞は胎生期や成体の中枢神経系に限って存在することから、神経幹細胞から分化した血管構成細胞が脳血管の形成に関与する可能性が考えられる。本研究計画の最終年度である平成15年度では、神経幹細胞による血管腔形成過程において、どのような液性因子が関与するのかを末梢血管の場合と比較検討した。神経幹細胞は、マウス胎仔(E12)脳より単離した神経幹細胞を含む細胞群を、bFGFを含む無血清培養液中でneurosphere法により培養調整した。血管腔構造の形成は、神経幹細胞をコラーゲンゲルに包埋し、FBSとbFGFを含むメディウム中で三次元培養することで行った。その際、血管新生因子として血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、形質転換増殖因子β1(TGF-β1)、骨形成因子(BMP2)、Angiopoietin-1をそれぞれ添加した。血管腔構造の形成は、TGF-β1により優位に促進され、その促進作用はTGF-β1中和抗体の添加により抑制された。一方、VEGF、PDGF、BMP2、Angiopoietin-1は管腔形成促進作用を示さなかった。以上のことより、神経幹細胞による管腔形成にはTGF-β1が関与する一方で、血管の形成過程に通常必須と考えられているその他の液性因子の関与は少ないものと考えられた。脳血管にはアストロサイト依存性の血管形成や血管緊張性の筋原性自動調節など末梢血管とは異なる特徴的な機能が備わっている。以上の結果を考慮すると、脳血管が末梢血管とは異なる起源と形成過程に起因するためではないかと考えられる。
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