アンジオテンシン変換酵素阻害薬の血管系への作用は、血管局所でのアンジオテンシンII産生阻害に加え、ブラジキニン分解の阻害につづく内皮NO系の亢進に基づくと考えられている。しかし血管局所でのキニン産生がどのように行われているかについての詳細は明らかではない。本研究はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて、内皮細胞が組織カリクレインを産生分泌するか否かにつき詳細に検討した。 】HUVECの培養上清を透析・濃縮し、合成ペプチド基質を用いてカリクレイン活性を測定したところ、培養時間に依存して培地中に活性の増加を認めた。このカリクレイン様活性はカリクレインインヒビターであるaprotininで完全に阻害されたが、血漿カリクレイン阻害作用のあるsoybean trypsin inhibitorで影響を受けないことから、組織カリクレインと考えられた。HUVEC培養上清を抗ヒト組織カリクレイン抗体でWestern blotを行ったところ、標準カリクレインに一致したサイズの抗原の存在を認めた。HUVEC培養上清をウシ低分子キニノゲンと反応させた結果、キニンの産生活性をもつことが確認された。また、35S-メチオニン存在下で培養したHUVEC培養上清を抗ヒトカリクレイン抗体で免疫沈降し、その沈降物のSDS-PAGEを行った結果、組織カリクレインに一致したバンドが認められ、組織カリクレインはHUVECによりde novo合成されていることを確認した。ヒト組織カリクレインに特異的なプライマーとプローブにより、HUVECからのRNAについてRT-PCR Southern blottingを行った結果、組織カリクレインmRNAの発現を認めた。 以上の結果は、HUVECが独自に組織カリクレインを産生分泌することを証明するものであり、血管内皮上に分泌されたカリクレインが血流中あるいは内皮膜上に結合して存在するキニノーゲンからキニンを定常的に産生している可能性を示唆する。
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