アンジオテンシンタイプ1受容体(AT1R)遮断薬の心・血管系への作用は、AT1R遮断に加え、アンジオテンシンタイプ2受容体(AT2R)刺激によるカリクレイン・キニン系を介したNO/cGMP系の亢進に基づくと考えられている。しかし、心・血管系におけるAT2Rの生理作用発現機構やAT2Rを介したカリクレイン・キニン系の活性化機構に関しては未だ多くの点が不明である。そこで、高血圧モデルラットを用い血管におけるAT2Rの生理的役割を明らかにする目的で、AT2受容体の発現および、アンジオテンシンII(Ang II)に対する血管の収縮感受性に関して検討を行った。ラットの腹部大動脈に狭窄部位を作製し、胸部大動脈に圧負荷をかけた後、頸動脈圧を測定したところ30mmHg以上の頸動脈圧上昇を認めた。次に、これら血管における、AT1RならびにAT2R mRNA発現を検討したところ、動脈狭窄処置によりAT2R mRNA発現の亢進を認めたが、AT1R mRNA発現に変動は認められなかった。そこで、AT2R mRNAの発現亢進にAng IIのAT1Rを介した作用が関与しているかをAT1R遮断薬を用いて検討したところ、AT1R遮断薬により頸動脈圧の低下は認められなかったもののAT2R mRNA発現亢進は、AT1R遮断薬により抑制された。さらに、動脈狭窄処置7日目における大動脈のリング標本において、Ang IIに対する収縮牲を検討したところ、動脈狭窄処置したラットの血管ではAng IIによる収縮反応が低下しており、その低下はAT2R遮断薬の共存により回復することを認めた。これら結果より、動脈狭窄処置により血管に圧負荷が加わった際、Ang IIは血管AT1Rを刺激することによりAT2R遺伝子の発現を亢進させることにより、Ang II対する収縮応答を減弱させ、高血圧による負荷から血管を保護する機構を発動させているものと考えられた。
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