研究概要 |
前年度までの研究によって,ステロール14脱メチル化P450(CYP51)の発現が,肝臓,小腸などと卵巣では異なった調節を受けており,それがこの酵素の卵巣特異的な役割(減数分裂活性化ステロールの産生)に関与していること,肝臓や小腸におけるCYP51の発現にインスリンが必要であり,それにはSREBPの発現に対するインスリンの促進効果が関与する可能性が高いこと,甲状腺ホルモンが本酵素の発現に必要であることなどを明らかにした。本課題研究の最終年度に当たる本年度は,肝臓以外の臓器,特に脳における発現調節に関する検討,本酵素の発現に対して抑制的に働く因子として見出しているデキサメタゾンの意義についての解析,培養細胞系を用いたCYP51のプロモーターの機能解析と細胞の増殖・分化に対するCYP51の機能研究に関する予備的検討を行い,以下の結果を得た。 (1)脳におけるCYP51の発現は,これまで対象にしてきた肝臓や小腸と本質的な相違点はなく,神経組織におけるCYP51の発現が特別な調節を受けているという事実は見出されなかった。(2)肝臓CYP51の発現抑制に必要なデキサメタゾン投与量は,副腎萎縮及び血中コルチコステロン濃度の低下に必要な濃度に相当し,デキサメタゾンのCYP51発現抑制がグルココルチコイド受容体を介している可能性が示唆された。(3)培養肝細胞とルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとする発現プラスミドを用いたCYP51プロモーターの機能解析実験によって,同領域に存在するSRE,CREがCYP51発現に必要であることを確認すると共に,それらに隣接する塩基配列GCAATのエレメントが発現に必要であることを見出した。(4)Caco-2細胞の増殖と分化の過程におけるCYP51の発現レベルの変動及びそれらに対するCYP51阻害剤の影響を解析し,同細胞の分化にCYP51が関係する可能性を示唆する情報を得た。
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