脳の高次機能は神経細胞が層構造を形成し、それらがさらに複雑なネットワークを形成することにより発揮される。神経細胞の層構造形成を制御するリーリンは機能を発現する際に、会合体を形成することを既に明らかにしたが、今年度はその会合体形成に関与する重要な部位を同定するために以下の研究を行った。まず全長のリーリンのうちの一部分を欠損した変異型リーリンを作製し、PSecTag2ベクターにインサートとして挿入した遺伝子発現系を構築した。次にこれらの遺伝子産物である変異型リーリン蛋白質の会合性の有無を検討するために、作製した変異型リーリンの遺伝子をヒト腎臓由来の培養細胞株293Tに導入した。それを培養し、その培養上清中に産生される変異型リーリンを回収し、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。その後、ウエスタンブロットを行い、天然状態での変異型リーリンの会合体形成能の有無を調べたところ、リーリンの会合体形成にはN末端の約370残基が極めて重要であることがわかった。続いて、293T細胞を用いて、細胞膜上に変異型リーリンを発現させる発現系を作製し、これと同様の変異型リーリンをコートしたデイッシュを用いて、細胞接着実験を行うことにより、変異型リーリン同士の相互作用を直接、観測、解析した。その結果、細胞接着実験においても、N末端370残基を欠損した変異型リーリンについては、相互作用が観測されなかった。これらの結果から、3461残基からなるリーリンのN末端370残基が、機能発現に直結したリーリン分子同士の相互作用に極めて重要であることが明らかになった。
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