亜鉛はグルタミン酸作動性ニューロンのシナプス小胞に存在し、シナプス伝達効率を調節する神経伝達調節因子と考えられる。また、マンガンがシナプス小胞に取り込まれ、シナプス神経伝達に作用することが考えられる。本研究では、亜鉛、マンガン等の遷移金属のシナプスでの動態解析を行い、それらの多彩な作用を生理的な面ならびに毒性面から明らかにする。 海馬、扁桃体等においてグルタミン酸作動性ニューロン終末からマンガンが放出され、グルタミン酸、GABA等の放出に影響を与えることが示唆された。マンガンがシナプス神経活動を調節している可能性がある。 亜鉛は介在ニューロンからのGABA放出をAMPA/KA受容体の活性化を介して促進すること、またシナプス前ニューロン(苔状線維とSchaffer側枝)からのグルタミン酸放出を抑制することを示唆した。また、グルタミン酸作動性のCA1錐体細胞の投射先が嗅内野であることを利用してシナプス後ニューロンに対する亜鉛の作用を調べたところ、亜鉛はシナプス後ニューロンからのグルタミン酸放出をも抑制することが示唆された。 一方、低亜鉛食飼育したラット海馬では、刺激に伴い細胞外グルタミン酸濃度が異常に増加した一方、GABA濃度の増加は欠損していた。この点に着目し、亜鉛不足によりてんかん発作感受性が増大する可能性を調べた。その結果、低亜鉛食飼育したマウス、ラットではカイニン酸誘発性の痙攣発作感受性が増大することが明らかとなった。さらに、低亜鉛食群の海馬細胞外液グルタミン酸濃度はカイニン酸投与後速やかに増加したが、通常食群ではその増加はわずかであった。一方、GABA濃度は通常食群では増加したが、低亜鉛食群ではまったく増加しなかった。以上より、GABA濃度増加の欠損と関連したグルタミン酸濃度の増加が亜鉛摂取不足に伴う発作感受性増大の一因であることが示唆された。
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