1996年に名取らは、センチニクバエが傷害時に新しい防衛物質としてドーパーグルタチオン抱合体関連物質を見出した。これが過酸化水素を発生させて、迅速に殺菌する事等から、昆虫の新しい防衛機構を推定した。本研究はこれに相当する機構を高等動物から探索することを目的とした。本研究者らは1986年にラット肺よりカテコールアミンの一つであるドーパミンのグルタチオン及びシステイン誘導体を構造決定したが、名取らのカテコールアミン誘導体と類似から、肺の防衛のための内因性物質と予測した。新しい防衛機構に関与すると仮定される内因性および外因性物質の合成を試みた。合成研究中にシステインから亜硫酸が発生したので、この発生の機構を調べるためにシステイン-S-スルホン酸の合成を行った。合成副生物ポリマーがアミロイド蛋白の沈澱の原因になることを、トランスサイレチンのシステイン残基のS-スルホン酸経由の酸化機構により明らかにした。亜硫酸が、生体防衛機構の破綻因子になると考えた。一方、カテコールアミンはモノアミンオキシダーゼにより発生する過酸化水素も生体防衛物質として働く事を推定した。交感神経系のカテコールアミンおよびその誘導体から生成する過酸化水素と副交感神経系のアセチルコリンから生成する一酸化窒素のバランスによる生体防衛と病因の体系的概念を構築した。この概念は人類が直面する難病の開明研究に大きく寄与することが期待される。
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