本研究では、ラット尾動脈内皮細胞を用い、プリン受容体を介した細胞容積調節機構について検討を行った。本実験結果より、血管内皮細胞膜上のP2Y受容体は、細胞容積減少機構を有し、低浸透圧下で膨張した状態においては、過度の膨張による細胞障害の防御に関与することが示唆された。また、正常状態(等浸透圧)においては、このようなP2Y受容体刺激がFITC-デキストラン(分子量約4000)の透過性を亢進したことから、内皮細胞間隙における物質透過性に促進的に寄与する可能性が示唆された。本実験によって得られた知見を以下の様に総括した。 1)ラット尾動脈内皮細胞においてP2Y受容体刺激は細胞容積減少を示し、その機序としてP2Y受容体に共役したPLC/IP_3産生系を介する細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>放出が重要であることが示された。 2)低浸透圧刺激により内皮細胞からATPが遊離され、オートクリン/パラクリン的にP2Y受容体に作用し細胞容積を減少させること、その機序が正常状態(等浸透圧状態)で観察された細胞容積減少作用と同様に、[Ca^<2+>]iレベルの上昇に基づくものであることが示された。 3)正常状態(等浸透圧状態)におけるP2Y受容体を介した細胞容積減少作用は内皮細胞間隙を介する物質透過に関与する可能性が示唆された。 以上の結果から、生体内では血流中の何らかの因子によって、内皮細胞自身もしくは平滑筋細胞や血球細胞から放出されるATPが内皮細胞の容積を調節していることが予想される。本実験で見い出された内皮細胞P2Y受容体を介した細胞容積調節機構は、ATPを介した血管内皮細胞・血球間クロストーク(双方向機能調節機構)の解明に非常に重要な知見と考えられる。
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