研究概要 |
血管内皮細胞と血球細胞のATP作動性細胞間情報伝達機構を明らかにするために、今年度は内皮細胞と赤血球におけるATPの作用と遊離についてさらに検討を進め、以下のような結果を得た。 (1)ラット尾動脈培養内皮細胞層において2-mSATPはその細胞形態を変化させること(面積減少作用)、この作用と同じ機序でFD-4(FITC-labeled dextran)の細胞層透過を促進する事を明らかにした。さらにこの透過性促進作用には、ミオシン軽鎖が関与していることを明らかにすると共にと、ミオシン軽鎖キナーゼとRhoキナーゼにより調節されていることを明らかにした。さらに、この透過性亢進作用はラット尾部組織還流標本においても、起こること、その薬理学的性質は培養内皮細胞で得られたものと同じであることが明らかにされた。 (2)ラット赤血球において、ATPは細胞内カルシウムイオン濃度を著明に増加させた。また、流路中にフィルタ(5ミクロンのポアを持つ)を挿入した灌流装置に赤血球を流し、灌流圧に対するATPの影響を検討したところ、ATPは灌流圧を有意に上昇させた。即ち、ATPは赤血球の変形能を低下させた。一方、ATP受容体拮抗薬であり、ATP分解酵素阻害薬であるスラミンも、細胞内カルシウムイオン濃度を増加させるとともに、赤血球の灌流圧を有意に増加させた。なお、スラミンは赤血球からの自発的総プリン(ATP, ADP, AMP, adenosine)の遊離量には影響しなかったが、ATPの遊離量を有意に増加させた。このことから、スラミンはATPの分解を阻害することにより細胞外ATP量を増やし、これが赤血球の細胞内カルシウム濃度を増加させてその変形能を低下させたことが示唆された。 以上の結果より、細胞外ATPが赤血球の変形能に影響すること、その作用がATP分解酵素によって調節されていることが示唆された。本研究結果は、内皮から遊離されたATPが内皮細胞の形態と赤血球の変形能を調節していることを示唆するものである。
|