研究概要 |
【目的】疫学調査より,ディーゼル排出微粒子(DEP)を主要成分とする大気中微小粒子(PM2.5)の長期曝露と循環器疾患に起因する死亡率増加との間に正に相関性が見出されている。そこで,DEP中に含まれているキノン化合物である9,10-フェナントラキノン(PQ)の血管圧調節系に及ぼす効果とそれに係るメカニズムについて検討した。 【方法】動物及び細胞:Wistar系雄性ラット(7-9週齢)とウシ大動脈血管内皮細胞を用いた。 血管圧の決定:大動脈血管リングをオルガンバスに懸垂して張力を測定した。ウレタン麻酔下ラットの血圧を観血的に測定した。 【結果・考察】PQ(5μM)はAch依存性血管平滑筋の弛緩を有意に抑制した。PQ(0.36mmol1/kg)処置によりラットの血圧は対照群の1.4倍上昇した。この条件下において,血漿中NO代謝物量は対照値の約70%まで低下していた。PQはラットの大動脈血管を濃度依存的に収縮した。しかし,同条件下において,キノン骨格を有しないフェナントレン(DEP中主要多環芳香族炭化水素)およびフェナントレン-9,10-ジヒドロジオールは血管収縮作用を示さなかった。PQによって生じる血管収縮作用は血管内皮の剥離,オルガンバス中バッファーからのカルシウム除去,および受容体型カルシウムチャンネル阻害剤前処置により顕著に阻害された。PQは血管内皮型一酸化窒素(合成酵素(eNOS))活性を阻害して血管内皮由来のNO依存性血管平滑筋弛緩作用を抑制して血圧を上昇させるDEP成分であることが明らかになった。また,PQの血管収縮作用には受容体型カルシウムチャンネルを介した細胞内カルシウム増加と上記したようなeNOSの機能障害に起因するスーパーオキシドの産生が関係することが示唆された。
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