これまで本研究者は、メタロチオネイン遺伝子欠損マウス由来の細胞を用いてCd耐性細胞を樹立することにより、Cdの蓄積が抑制されることによってCd耐性になる細胞を確立した。この細胞の性状を解析する過程で、細胞へのCdの取り込みの一部に、Mnの輸送系が用いられている可能性が示唆された。そこで、本研究では、その詳細な機構を明らかにすること、Cdの細胞毒性に及ぼす影響を検討すること、また、動物レベルにおいてもCdとMnの相互作用が認められるのか、を明らかにすることを目的として研究を実施した。マウスにおけるCdの急性毒性である肝障害と精巣出血を指標に、Mn同時投与の影響を検討した結果、Cdの急性毒性である肝毒性と精巣出血は、いずれもMnの同時投与によって顕著に抑制されることが示された。しかし、肝臓中Cd濃度はMnの同時投与によって減少してはいなかった。さらに、Mn以外の様々な2価の金属のうち、Coを同時投与したときにもCdによる肝毒性と精巣出血が抑制された。しかし、Coも肝臓や精巣中Cd濃度をほとんど変化させなかった。したがって、in vivoにおいてMnとCoはCdの毒性を明らかに抑制するものの、その機構としてCd輸送は関与していない可能性が示された。MT欠損マウス由来の繊維芽細胞では、Cdの蓄積と細胞毒性は、培地に同時に添加したMnによって明らかに抑制された。しかし、MnとCdに共通の輸送系が機能していないCd-r細胞ではMnによるCd毒性の軽減は観察されなかった。したがって、少なくとも繊維芽細胞においては、Cdの細胞への取り込みと毒性発現にMnが確かに関与していることが明らかとなった。また、Cdの取り込みが抑制されている細胞と親株細胞由来のpoly(A)^+ RNAをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、Mn輸送に関わる遺伝子をクローニングする準備を行った。
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