前年度にケトン体利用酵素であるアセトアセチル-CoA(AA-CoA)合成酵素が脂質代謝の盛んな組織に高発現しており、その活性調節が性ホルモンの支配を受けていることが明らかとなったので、本年度は、組織の細胞の分化、細胞内への脂肪滴の蓄積が各種ホルモンの支配を受けている脂肪組織に着目し、白色脂肪組織、褐色脂肪組織を用いて本酵素遺伝子の発現を検討した。 その結果、本酵素遺伝子は雄の皮下部白色脂肪組織に特に著しく発現していることがわかった。一方、肝臓においてその発現がアセトアセチル-CoA合成酵素と連動していることが明らかとなっているHMG-CoA還元酵素遺伝子は脳、肝臓で多く発現していたが、脂肪組織では殆ど発現していなかった。このことから、脂肪組織においては本酵素は肝臓とは違う役割を持っている可能性が考えられた。次に本酵素遺伝子の発現に日内周期が存在するかどうかを調べたところ、ラットの皮下部白色脂肪組織での本酵素遺伝子の発現は、夜間で多く、日中は低い傾向を示すことがわかった。ラットは夜行性の動物であることから、本酵素遺伝子の発現はラットの活動が盛んな時期に多く発現していると考えられた。脂肪組織は胎児発生後期から形成されていくが、本格的な発達は離乳を境に起きる。そこで、離乳前後を含めて脂肪組織が発達し、エネルギー蓄積器官として成熟するまでの過程において、本酵素遺伝子の発現に変動があるかどうかを検討した。その結果、皮下部白色脂肪組織において本酵素遺伝子は離乳後の4週齢で雄、雌共に発現が上昇していた。また、雄では離乳期後も発現は更に上昇し続けるが、雌では発現に変化はみられなかった。 以上の結果から、本酵素遺伝子は生体が成長し脂肪組織が発達し脂質代謝が成熟すると共に発現が上昇すると考えられる。更に、本酵素遺伝子は離乳後の雌雄の発現パターンが異なることから本酵素と性成熟に関係がある可能性が示唆された。
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