環境中の無機水銀及び有機水銀を同時に浄化できる新しい生物学的浄化法の開発を目指して研究を進めた。そこでまず、両水銀の浄化に利用し得る遺伝子pMKB18(merR-o/p-merT-merP-merB1-ppk)の構築を行った。pMKB18上の各遺伝子はいずれも水銀化合物の誘導下でそれぞれ菌体内で発現していることが確認された。次に、pMKB18をもつ微生物の水銀浄化活性を調べたところ、本形質転換微生物の水銀取り込み量は対照の場合に比べて、無機水銀の場合は約10倍、フェニル水銀の場合は約2倍高いことが判明した。このとき、培地中に残存する水銀量は両水銀とも20時間後に殆ど検出限界以下までに減少した。次に、本浄化微生物をアルギン酸ナトリウムを用いて固定化細胞を作製した後、水銀浄化活性を調べたところ全く同様な活性を示した。また、本固定化細胞は低栄養条件下あるいは他の重金属共存下においても高い水銀浄化活性を示した。以上の結果から、merT-merPにり菌体内に取り込まれた無機水銀は、ppkによりコードされるポリリン酸キナーゼによって合成されたポリリン酸によりキレートされて、菌体内に蓄積されると考えられる。一方、菌体内に取り込まれたフェニル水銀はまずmerBにコードされる有機水銀分解酵素により加水分解された後、同様にポリリン酸によってキレートされて、菌体内に蓄積されると推定した。本浄化法は水銀が再び環境に拡散して環境を再汚染する懸念が少なく、利用し易い方法と考える。
|