研究概要 |
Total PCS(premature chromatid separation :細胞分裂期の全染色体の染色分体が完全分離する現象)の遺伝形質がホモ接合の患児は重症な先天奇形を伴い,高発がん性で多彩な染色体トリソミーを示す.本症の培養線維芽細胞はコルセミド処理下でも分裂期で停止せず,分裂(M)期チェックポイント機構に障害があることが判っている.本研究では,total PCSの分子遺伝学的成因の解明を目指している.平成13,14年度に得られた主な新しい知見は以下のとおりである. 1.既に報告した2症例(Am J Med Genet 78:245,1998)に加え,同様の臨床知見と染色体知見を示す新たな5例の自験症例および3例の文献例をまとめると,7家系10例(3姉妹,2兄妹罹患の各1家系を含む)のうち,9例に生後5ヶ月以内のWilms腫瘍を認めた.なお2例はWilms腫瘍と横紋筋肉腫とが合併していた.したがってtotal PCSを,染色体不安定性を伴う新たな高発がん性遺伝形質として確立することができた(Am J Med Genet 104:57,2001). 2.本症の確定診断にtotal PCSの出現頻度が重要な指標となるため,その検出条件を検討した結果,標本作製時における低張液処理の至適条件は37℃20分間であることが確認された.37℃下20分以上の処理では健常者の染色体標本でもtotal PCSが出現すること,total PCSは低張液処理によって初めて検出可能となること,などが判った(lkeuchi et al. submitted). 3.本症のリンパ芽球細胞株でもM期チェツクポイント障害があり,染色体不分離や微小核形成を介して,多彩な染色体が関与した異数性細胞が産生されていることが確認された. 4.本症患由来のリンパ芽球細胞と線維芽細胞の各2株,保因者由来の多数株を樹立・保存した.
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