研究概要 |
我々は1998年に分裂期染色体の全染色分体が高頻度に解離し(PCS, premature chromatid separation),多彩な染色体異数性モザイクを示す新しいヒト高発がん性遺伝病(PCS症候群)を報告し,2000年には患児由来の繊維芽細胞にはM期チェックポイント障害(Colcemid処理下でも分裂期で停止せず)のあることが確認できた.本研究で得られた主な新知見は以下の通り. 1.報告済みの2例(Kajii et al.1998)に加えて,新たな4家系5症例を追加調査できた.自験7例と他の文献3例を併せた計10例における臨床像(小頭,成長障害,Dandy-Walker奇形など)の類似性や,異数性モザイクとPCSの高率出現と共に,10例中8例にWilms腫瘍または横紋筋肉腫の発生が確認され,本症を染色体不安定性を伴う新しい高発がん性遺伝病として確立できた. 2.本症の原因遺伝子は未定.したがってホモ接合のPCS症例やヘテロ接合の保因者を確定診断するには顕微鏡下で観察できるPCSの出現頻度が重要な指標となる.PCSの検出条件を検討したところ,標本作成時における低張液処理の至適条件は37℃,20分であることを確認した.30分以上処理すると健常者の細胞でもPCSが高頻度に出現することも認めた. 3.本症由来のリンパ芽球細胞杯にもM期チェックポイント障害(Colcemid処理でM期停止がなく倍数化)があり,染色体不分離や微小核形成を介して多彩な異数性細胞が生じることを確めた. 4.PCS患児2例に発生した腫瘍の染色体および多型性DNAマーカーを解析した.1例目のWilms腫癌(WT)では11番染色体の父性ダイソミーであることを認め,11番のインプリンティング遺伝子(細胞増殖に促進的な父性発現のIGF2など)の高発現が細胞の異常増殖と腫瘍の発生に1次的に関与していることが示唆された.2例日のWTおよび横紋筋肉腫でも,検索できた11番染色体5マーカーすべてにLOHが見られ上記の知見が裏付けられている. 5.本疾患由来のリンパ芽球細胞と繊維芽細胞の各2株,保因者由来の多数株を樹立・保存した.
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