研究概要 |
1.細胞胞分裂期の染色体に早期染色分体解離(premature chromatid separation : PCS)を示す遺伝形質のホモ接合体は,多彩な異数性細胞のモザイクを示し,重度な先天異常(成長障害,小脳低形成など)と小児腫瘍の発生を伴う(Kajii et al.1998).また,患児由来の体細胞には,M期チェックポイント障害のあることが確認されている(Matsuura et al,2001).既に報告した2例に加えて,新たな4家系5症例を追加調査できた.文献上の3例を併せて計10症例における臨床像と染色体所見の類似性を確認し,疾患単位としてのPCS症候群を確立し,PCS(OMIM #176430)症候群は染色体不安定性に起因する先天異常を伴った新たな高発がん性遺伝形質であることを確認した(Kajii et al,2001). 2.PCS症候群の出生前診断が可能であることを示した:PCS症例の出産経験のある妊婦で,羊水培養細胞のPCS頻度(4.5%)から,胎児はPCSの保因者と診断した(Kajii & Asamoto, 2004). 3.従来使用していた用語total PCSをPCSに改称し,しばしばPCSと混同される類似用語PCD(premature centromere division : OMIM #212790)との定義上の違いを明確にした(Kajii & Ikeuchi,2004). 4.PCSの出現頻度は本症の確定診断の重要な指標となるため,その検出至適条件を検討した:標本作製時の低張液処理条件は37℃20分間であること,20分以上の処理では健常者の標本にもPCSが出現すること,PCSは低張液処理によって検出可能となること,などが判った(Ikeuchi et al.2004) 5.PCS患児2例に発生した腫瘍の染色体および多型性DNAマーカーを解析した.1例目のWilms腫瘍(WT)では11番染色体の父性ダイソミーを認め,11番の刷込み遺伝子(細胞増殖に促進的な父性発現のIGF2など)の高発現が細胞の異常増殖と腫瘍の発生に関与していることが示唆された.2例目のWT及び横紋筋肉腫でも,11番染色体片親ダイソミーが認められた(学会報告,2004). 6.本疾患由来のリンパ芽球細胞と繊維芽細胞の各2株,保因者由来の多数株を樹立・凍結保存できた.
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