ヒトY染色体上の精巣決定因子SRYは男性における性決定の最初の鍵となる遺伝子であるが、未だにその機能は明らかでない。本研究では、まずSRYの下流の遺伝子を探索した。報告されている既知の遺伝子の発現パターンより、セルトリー細胞のtight junction形成に重要なclaudin11がSryの下流遺伝子の一つである可能性を考えた。そこで、SRYがclaudin11プロモーター活性に影響を与えるか否かをヒトNT2/D1細胞を用いて、ホタルルシフェラーゼをレポーターとして検討した。その結果、SRY過剰発現のもとではclaudin11プロモーター活性がコントロールと比べて2.5倍増加した。興味深いことにclaudin11のプロモーター領域には3カ所のSRY/SOX結合部位が存在していた。SOX9についてもSRYと同様な実験で、claudin11のプロモーター活性をコントロールと比べて1.7倍増加させた。これらのことから、SRY/SOXがclaudin11の制御に関わっている可能性が考えられた。 またY染色体上の遺伝子でSRY以外にも精巣特異的に発現しているものがいくつか知られているが、その機能は殆ど明らかとなっていない。我々はその中でHSFY (HSF-like factor encoded on the Y chromosome)に着目し、その機能解析を行った。新規に作成したHSFY特異的抗体およびmRNA発現解析の結果から、この遺伝子は精巣のセルトリー細胞と精子形成細胞に特異的に発現していることが判明した。またY染色体上の無精子症候補領域AZFbの欠失をもつ無精子症患者2名においてこの領域を含む欠失があることを見出した。以上のことからHSFYは精子形成に重要な役割を担っていると考えられた。
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