研究概要 |
1.先天性無痛無汗症(CIPA)の日本人23家系と海外8家系の解析を進めて、すべての患者にTRKA遺伝子の変異を検出した。またTRKA遺伝子内に位置する多型部位を見出した。これをもとに、日本人の家系についてハプロタイプ解析を行い、日本人患者の半数以上に検出される変異(R548fs)が共通の祖先に由来する創始者変異であること示唆する結果を得た。 2.遺伝形式がメンデルの常染色体劣性遺伝形式に従わないCIPA症例と両親について解析を行った。TRKAが位置する1番染色体の多型マーカーの分析では、この患者はホモ接合体であり、しかも遺伝子変異を有すると考えられる父親の染色体に由来することを示唆する結果が得られた。その他の染色体は、父親と母親の両者に由来し、メンデル遺伝している結果が得られた。以上から、この患者は1番染色体の父性片親性アイソダイソミーにより発症したことが推察された。 3.エキソントラップ法を用いて、TRKA遺伝子のスプライス枝分かれ部位の変異(IVS7-33T>A)がスプライス異常を起こすことを明らかにした。また、32家系のCIPAにおいて検出された11個のミスセンス変異について神経細胞株での発現実験を行い、TRKAタンパクのプロセッシングとNGF依存性の自己リン酸化を観察した。細胞外ドメインの変異体のうち2個(L93P, L213P)は、正常とは異なるプロセッシングを受け、リン酸化反応は減弱していた。チロシンキナーゼドメインの変異体5個(G516R, G571R, R643W, R648C, G708S)のプロセッシングには異常は認めないが、どの変異体でもリン酸化反応が著しく減弱していた。3個のミスセンス変異(R85SとH598Y ; G607V)は、特定の人種(民族)にのみに特異的に検出される多型であると考えられた。また、残るD668Y変異体は非常にまれな多型か、もしくはリン酸化反応に影響を与えることなくTRKAタンパクの機能を阻害する可能性が示唆された。
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