研究概要 |
フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)はプラスチック可塑剤として広く用いられており、近年、PVC製輸液点滴セットから血中への溶出が報告されている物質である。本研究において、ラットを用いて母体血中、胎盤内、胎仔内及び乳汁中のDEHP濃度を測定し、妊娠ラットおよびマウスにDEHPを出産後離乳まで連日経口投与し、その仔が成熟した後に抗体産生能をはじめとする免疫活性を測定した。 1.PVC製輸液セットに可塑剤として含まれているDEHPは、Tween80存在下で約1.2mg/L溶出した。 2.妊娠中に摂取したDEHPは、母体血中では代謝されたMEHPとして存在しており、そのMEHPが胎仔中に移行することが明らかとなった。また、母乳中にもDEHP, MEHPが移行・蓄積されており、乳仔へ移行することが明らかとなった。 3.ラット胎仔期から授乳期にかけてDEHPに暴露されたF1は、成長後に免疫機能に影響を受けた。その影響は、性別や暴露期間によって大きく変化した。F1雌では、抗体産生能の有意な抑制とDTH反応の有意な亢進及びT細胞幼弱化の有意な亢進がみられた。このことは、Th1/Th2バランスが雄ではTh2に、雌ではTh1に傾いているためではないかと推察された。 4.DEHPはマウス成熟期曝露で、雌マウスの免疫能に影響をおよぼすことがわかった。 5.DEHPはマウス母体から仔に移行することが確認され、成熟後の雄では精巣重量の有意な低下が認められ、細胞性免疫能が亢進することが明らかとなった。また雌においては細胞性免疫能が抑制することが明らかとなった。 6.ダニアレルギーに対するDEHPの継世代的な影響について検討した結果、雌マウスにおいては、ダニ抗原に対するBリンパ球の増殖が抑えられ、アレルギー反応が抑制されることが明らかとなった。 以上、DEHPはマウスおよびラットの免疫機能に影響を与えることが示され、性差および種差が存在する事が分かった。
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