研究概要 |
心房細動を誘発する新しいメカニズムが最近提唱された。即ち、速やかに発火する異所性自動能が肺静脈内あるいは境界部位に局在し、それが心房細動の発生の引き金となりうるというものである。この自動能の発現には過分極誘発内向き電流(I_hまたはI_f)が重要な働きをしており、このI_hが関与しているHCNチャネルのファミリー(HCN1,HCN2,HCN3,HCN4)がクローニングされ、HCN4が心筋に最も多く発現していることが報告されている。 本研究では、まず、HCN4チャネル蛋白がラット左心房・肺静脈境界部位に存在しているか否かを免疫組織染色法で検討した。次に、哺乳動物(HEK293)細胞に発現させたHCNチャネル電流に対する基礎的電気薬理学的性質・各種抗不整脈薬の影響について検討すると共に、ラット摘出左心房-肺静脈標本の自動能の興奮についても同様の方法で比較検討した。 その結果、抗HCN4チャネル抗体を用いた免疫組織染色により、左心房・肺静脈境界部位にHCN4チャネル蛋白が存在していることを初めて確認した。HEK293細胞に発現させたHCN4チャネル電流はcyclic AMPにより活性化されると共に、Cs^+イオンで強く抑制され、これらの成績は従来報告されているHCN4チャネルの特徴と一致していた。このHCN4チャネル電流はI_h(I_f)遮断薬のzatebradineで強く抑制され、さらに抗不整脈薬であるamiodaroneとbepridilでも強く抑制された。Quinidine、lidocaine、aprindine、flecainideでも抑制作用が観察されたが、前三薬よりも弱い作用であった。ラット摘出左心房・肺静脈標本の自動能の興奮頻度はisoproterenolにより有意に増加し、Cs^+イオンで強く抑制された。その興奮頻度はzatebradine、amiodarone、bepridilにより著名に減少した。さらに、quinidine、lidocaine、aprindine、flecainideもこの興奮頻度を減少させたが、前三薬よりは弱いものであった。 以上のことより、HCN4チャネル電流に類似したイオン電流がラット摘出左心房・肺静脈境界部位の自動能の発現にも寄与している事が示唆された。また、amiodaroneの心房細動に対する効果にはこれらの電気薬理学的作用が一部関与すると思われる。培養細胞を用いたHCN4チャネルの発現系は、新たな機序を持つ心房細動治療薬の探索のための評価系となる可能性が示唆された。
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