本研究は、時計遺伝子に着目した時間治療法を開発することを目的として、レセプターの日周リズムの成因を体内時計の分子機構の側面から検討した。また視交叉上核(SCN)の時計遺伝子の日周リズムが薬物投与中に如何に変容するかを明らかにし、新規副作用を克服するための至適投薬設計を構築することを目的として行われた。実験動物として自由摂食摂水・明暗周期(明期:0700-1900)条件下で飼育したICR雄性マウスを対象とした。また摂食条件の操作あるいはコルチコステロン持続投与により、ステロイドのリズムパターンが異なる3種の動物を作成した。SCN以外の組織における時計遺伝子の発現は、休息期後半に高値、活動期後半に低値を示す有意な日周リズムが認められ、コルチコステロンの日周リズムと強く相関していた。脳幹におけるモルヒネのμ-オピオイドレセプターの発現も、時計遺伝子やコルチコステロンの日周リズムと相関していた。一方、IFNレセプター遺伝子の発現は、時計遺伝子やコルチコステロンの日周リズムと逆相関関係を示した。これらの遺伝子の日周リズムは摂食条件を操作することによりそのリズムの位相が約12時間シフトした。またコルチコステロン持続投与によりリズムは消失した。さらに5-フルオロウラシル(5-FU)あるいはIFNを持続投薬することにより、末梢のみならずSCNでも生体リズムが障害されることを明らかにした。薬物非投与時にはSCNのPer1、Per2、Per3 mRNA発現量はそれぞれ明期(休息期)前半、後半、中間に最高値を示した。一方、5-FUあるいはIFNの連続投与によりそれらのリズムの振幅は顕著に低下した。行動や体温のリズムは暗期に高値を示すが、投薬によりその振幅は顕著に低下した。このような生体リズム障害は投薬時刻を変えることで回避することができた。生体のホメオスタシス機構を維持しながら治療していくことが、副作用、合併症の防止という点で重要である。
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