体内時計の本体は、視神経が交差する視交叉上核(SCN)に位置し、時計遺伝子により制御されている。この遺伝子は中枢のみならず末梢組織でも発現しており、ローカル時計として機能している。すなわち、生体は体内時計の階層構造をうまく利用し、生体のホメオスタシス機構を維持している。時計遺伝子の機能と役割が生理学的側面より明らかにされつつあるが、今後の重要な課題として臨床応用があげられる。本研究では、時計遺伝子に着目した時間治療法を開発することを目的とし、以下の点を明らかにした。実験1:薬物代謝酵素、レセプターの日周リズムの成因としての時計遺伝子およびステロイドの役割を明らかにした。実験2:これらの生体リズムマーカーに着目し、生体リズム(生体内環境)を操作することにより新規時間治療法を開発できることを示した。実験3:SCNの時計遣伝子の日周リズムが薬物投与中に如何に変容するかを明らかにし、新規副作用(時計遺伝子の変容)を克服するための至適投薬設計を構築できることを示した。以上の研究をとおして、時計遺伝子やステロイドなどの生体リズムマーカーのモニタリングを基盤とした最適投薬タイミングの設計が可能となり、薬物治療の個別化、薬物誘発リズム障害の防止につながるものと思われる。
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