研究概要 |
昨年度までに培養ウシ大動脈内皮細胞を用いた検討の結果,生体内活性リン脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)が,内皮細胞における流れ刺激受容の初期応答として,LPA濃度及び流れ刺激強度に依存した,特徴的な[Ca^<2+>]_i上昇現象(Ca^<2+>-Spots)を誘発することを明らかにしてきた。本年度はさらに生理的な実験条件として、マウス大動脈組織標本を用いたin situでの検討を行った。ddY系雄性マウスの胸部大動脈を摘出後,血流方向に切り開き、fluo-4/AMを負荷した後,自作の流れ刺激負荷装置の流路部分に固定した。流れ刺激は,シリンジポンプを用いて負荷し,個々の細胞のCa^<2+>応答は,多光子励起レーザー走査型蛍光顕微鏡システム(RTS200MP, Bio-Rad ; Ti : S laser, Spectra-Physics, Tsunami)を用いて観察した(Ex;780nm, Em;450-600nm)。流れ刺激付加装置に固定したマウス大動脈組織片に流れ刺激のみを適用しても明らかなCa^<2+>応答は認められなかったが、LPA(1〜10μM)存在かに流れ刺激(10〜40dyne/cm^2)を負荷すると、培養内皮細胞で認められたものとほぼ同様のLPA濃度及び流れ刺激強度に異存したCa^<2+>応答が生じることが明らかとなった。さらにこの現象を約0.2秒間隔で高速に画像を取得して解析を行った結果、数μm^2の開始部位から同心円状にひろがるCa^<2+>-Spots現象が認められた。また、このCa^<2+>-Spots現象は機械受容チャネルの阻害薬であるGd^<3+>で抑制されたことから、機械受容チャネルを介するCa^<2+>流入を何らかのメカニズムを介してLPAが促進することが示唆された。このように、培養内皮細胞で認められたLPAの流れ刺激受容応答に対する促進作用が組織構築を維持した血管組織においても同様の性質として認められたことは、実際に生体中でLPAが流れ刺激受容応答を左右する生理活性物質として重要な役割を果たしている可能性を強く示すものである。
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