シクロスポリンはネフローゼの治療に適応となっているが、その治療効果には個人差があり、シクロスポリン投与によっても症状の改善が得にくい患者が存在する。本研究の目的は、このような治療に抵抗性を示す患者を治療前のPBMCのシクロスポリン感受性によって選別し、その情報に基づいて個別療法を推進するための指針を作ることであった。更に、シクロスポリン感受性低下の分子機序について、特にネフローゼに特異的な高コレステロール血症とPBMCのシクロスポリン感受性との関連から探ることを本研究の目的とした。24例のMCNS患者を対象とし、末梢血単核細胞(PBMC)のin vitroにおけるシクロスポリン感受性を検討したPBMCの幼若化を50%抑制するシクロスポリン濃度(IC50ng/ml)と、治療前の患者の臨床検査値(血清脂質、タンパク濃度、尿中タンパク濃度など)との関連を調べた。またPBMC表面上のLDL-受容体(LDL-R)を、抗LDL-R抗体を用いたフローサイトメトリーにより測定し、IC50値との関連を検討した。患者PBMCのin vitroでのシクロスポリン感受性とシクロスポリンの治療効果との間に、有意な相関を見出した、さらに、PBMCのシクロスポリン感受性を低下させる要因の一つとして血清総コレステロール値およびLDLコレステロール値に着目し、これらコレステロール値とPBMCのシクロスポリン感受性あるいはシクロスポリンの治療効果との間に有意な負の相関を見出した。即ち、血清コレステロール値が高い患者ほどPBMCのシクロスポリン感受性が低く、同時にシクロスポリン治療にも抵抗性を示すものと思われた。しかしながら、微小変化型ネフローゼ症候群におけるシクロスポリン感受性の個人差は、PBMC上のLDL受容体発現率の個人差とは関連しないものと結論した。
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