当該研究において、マウス胎児大脳皮質より調製したニューロンおよびグリア細胞を用いて、第一にH^+/oligopeptide transportersのmRNA発現を検討した。RT-PCRの結果、ニューロン、グリア細胞いずれにおいてもlow-affinity type H^+/oligopeptide transporter (PEPT1) mRNAを検出することはできなかった。一方、high-affinity type H^+/oligopeptide transporter (PEPT2) mRNAはニューロンでは検出できなかったが、グリア細胞ではその発現を認めることができた。またグリア細胞でのPEPT2の発現は、anti-PEPT2 antibodyを用いたWestern blottingでも確認することができた。さらに、グリア細胞における[^3H]glycylsarcosine (Gly-Sar)のpH依存的な輸送を検討したところ、その取り込みは飽和性を示し、Michaelis-Menten定数(K_t)は約110μMとなった。この結果は、PEPT2発現系より得られるGly-Sarの取り込みのK_t値や我々がラット大脳皮質より調製したシナプトソームを用いて既に報告しているGly-Sar輸送のK_t値とほぼ等しい値を示したことより、機能面においてもグリア細胞にPEPT2が発現していることを証明できた。さらに、この輸送の駆動力として考えられる内向きH^+勾配が、小腸や腎臓上皮細胞で示唆されているようにNa^+/H^+ exchanger (NHE)により形成されているか否かに関しても検討を加えた結果、pH7.4の条件下では、Na^+存在下でのGly-Sarの取り込みが、Na^+非存在下での取り込みより高い値を示したこと、また、amilorideやその誘導体のNHE inhibitorにより阻害されたことから、脳内においてもPEPT2の駆動力形成にNHEが関与していることを明らかにすることができた。 また、PEPT2の研究と平行してsystem Lアミノ酸輸送系の研究も展開し、抗てんかん薬であるgabapentinがこの輸送系によりグリア細胞内に取り込まれること、またこの取り込みが脱分極刺激により活性化される電位依存性Ca^<2+>チャンネルの阻害と機能的な関連を示すことも明らかにできた。
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