研究概要 |
前年度まではアルツハイマー病の老人斑構成成分であるβ-アミロイドの活性フラグメントを用いて、これを軽度の脳虚血処置を施したラットの脳室内に微量注入することにより脳循環障害を併発したアルツハイマー病患者を想定したモデルを作成し薬理試験を行った。そこで本年度は、マウスを用い、β-アミロイドの脳室内微量注入に高コレステロール食餌を抑えたモデルの作成を試みた。これは、脳循環障害の背景となる生活習慣病としての高脂血症や高コレステロール血症が我が国のアルツハイマー病患者の中に多いという臨床報告ならびにコレステロール生合成阻害剤の投与経験がアルツハイマー病の痴呆症への重症化を抑制したという疫学的な報告に基づいた研究である。 マウスに3ヶ月の高コレステロール食餌の摂取を行った後、β-アミロイド5nmolを3日間(計15nmol)脳室内投与し,水迷路課題を用いて空間認知に対する影響を観察した結果,本課題における空間記憶が著明に障害された。このことは、過剰なコレステロールは少なくとも脳の神経系において神経細胞膜の流動性あるいは膜輸送等に影響を及ぼし,β-アミロイドによる神経毒性の発現を増強したことを示唆している。現在はコレステロール摂取期間を9ヶ月まで延長して同様の研究を続けている。 今回の研究結果は、少なくとも(1)高齢のアルツハイマー病患者では、痴呆症への進行が早いという臨床報告を動物実験で再現できたこと、(2)トランスジェニックマウスの場合に比べて安価で簡便な病態モデルを作成できたことを示している。
|