本年度の研究実施計画 本年度は青森県下16市町村より無作為に抽出し本研究に同意の得られた1000名を対象とした。高血圧群は、1)薬物治療中、2)血圧が収縮期160mmHg以上、拡張期95HmmHgのいずれかあるいは、両方を満たす者とし183例(男性83例、女性100例)が抽出された。同時に、年令および性をマッチさせた高血圧歴のない正常血圧群193例(男性67例、女性126例)が抽出された。以上の2群において母系由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)多型と父系由来のY染色体Alu反復多型(YAP)の分布を検討し、高血圧との連関解析を行なった。 【方法と結果】 1.mDNA多型解析 予備的な検討として、正常血圧者20例と高血圧者20例においてPolymerase chain reaction (PCR) direct sequence法を用いてmtDNAのDループ領域の変異解析を行った。その結果16223番塩基のシトシンからチミンへの変異(C16223T)と16362番塩基のチミンからシトシンへの変異(T16362C)において有意差が認められた。そこで全例においてこの二つの変異をAllele specific amplification法(ASA法)を用いて遺伝子型を判定した。 正常血圧群において野生型であるC16223は26例(13.5%)、変異型である16223Tは167例(86.5%)であるのに対し、高血圧群ではC16223Cは48例(26.2%)、16223Tは135例(73.8%)で、有意の差が認められた(P<0.01)。一方、T16362C多型については正常血圧群と高血圧群との間に差は認められなかった。 II.YAP解析 対象は成人男性278例である。特異的プライマーを用いたPCR増幅産物の泳動距離の差によりAlu反復の有無を決定した。 278例中95例がYAP(+)で183例がYAP(-)であった。YAP(+)群では36例(37.9%)、YAP(-)群では67例(36.6%)において高血圧を認めたが、その分布には有意の差は認められなかった。 【結論】 mtDNA多型は糖尿病においてその病態的意義が注目されていたが、これまで高血圧における役割については注目されていなかった。今回の検討ではmtDNAのC16223T多型と高血圧との間に連関が認められ、高血圧におけるmtDNA異常と母系遺伝の重要性を示唆する結果と考えられる。他方、YAPは高血圧とは連関が認められなかったが、YAP(+)の頻度は青森県においても本州中央と差がなく縄文系の比率に差のない可能性が示唆された。次年度はmtDNA多型解析の対象を広げハプロタイプから縄文系と弥生系を分析を行ないたい。
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