本年度の研究実施計画 Y染色体多型はヒト系統樹研究における遺伝子マーカーとして汎用されており、特にAlu反復多型(YAP)の存在は縄文系由来をその欠失は弥生系由来を示唆するという。また、遺伝子多型の分布には民族差があり、病態的意義も異なることが指摘されている。我々はすでに、アルデヒド脱水素酵素(ALDH-2)遺伝子Glu487Lys多型が糖尿病性腎症の遺伝子マーカーとなりうる可能性を報告した。今回はALDH-2遺伝子多型とYAPの連鎖の有無について検討した。 【方法】対象は無作為に抽出された成人男性303例である。各人の末梢血液よりDNAを抽出し、YAPおよびALDH-2 Glu487Lys多型における遺伝子型をPCR法またはASA法により決定した。遺伝子多型の分布をx二乗法により検定した。 【結果】303例中102例がYAP(+)、201例がYAP(-)であった。ALDH-2の対立遺伝子は、YAP(+)群でD対立遺伝子が17.2%、N対立遺伝子が82.8%で、YAP(-)群と差を認めなかった(p=0.5494)。しかし、ALDH-2の遺伝子型は、YAP(+)群ではD/D型7例、D/N型21例、N/N型74例、YAP(-)群ではD/D型5例、D/N型67例、N/N型129例で有意の分布の差が認められた(p=0.0206)。 【結論】ALDH-2遺伝子Glu487Lys多型はYAPを指標とした縄文系と弥生系間において分布に特徴が認められ生活様式や疾患感受性に差のある可能性が示唆された。縄文系と弥生系における糖尿病性腎症の遺伝子マーカーとしての意義が注目される。
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