原発性肝癌の大多数をしめる肝細胞癌の腫瘍マーカーとして現在広く測定されているのはα-fetoprotein(AFP)とprotein-induced by vitamin K absence or antagonist-II(PIVKA-II)である。しかし、両者を組み合わせても、早期肝癌の検出率は50%以下であり、あらたな視点からの検討が必須と思われる。ゲノムに対する用語としてプロテオームが登場し、その変動を解析するプロテオミックスが注目されている。最近、surface enhanced laser adsorption/ionization(SELDI)法を応用したmass spectrometryによるprotein biochip technologyが導入され、異なるサンプル間の多種類のタンパク質発現をスクリーニング的に直接比較することが可能となってきた。 本研究は protein chip technology を用いて、原発性肝癌をはじめとする消化器系悪性腫瘍の腫瘍部・非腫瘍部における発現タンパクの差異を系統的かつ定量的に明らかにし、腫瘍部において発現が特異的に変化しているタンパク群を精製・同定し、あらたな腫瘍マーカーの候補タンパクを探るとともに、その測定系を確立することを目的としている。本年度は癌部で発現が特異的に増加している蛋白として、ポリADPリボースポリメラーゼに焦点をあて、その発現増加および自己ADPリボシル化反応の増強が原発性肝細胞癌の診断に役立つか否かを検討した結果、非癌部に比し、癌部におけるポリADPリボシル化反応が亢進していること、ポリADPリボースポリメラーゼ蛋白の発現量も癌部で有意に多いことがあきらかとなった。次年度以降はプロテインチップを用いた網羅的蛋白発現解析をさらに進めていきたいと考えている。
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