ポストゲノム時代に入り、トランスクリプトーム、さらにはプロテオーム解析への関心が高まっている。培養上清、臨床検体などに存在するタンパク質を網羅的に解析する方法として近年プロテインチップテクノロジーが登場し、新規腫瘍マーカーの探索などに利用されている。習慣飲酒は種々の消化器癌のリスクを高めることが知られているので、我々は断酒目的で入院したアルコール依存症の患者血清のプロテオーム解析の結果、新規飲酒マーカーの複数の候補を見出した。プロテインチップ実験の至適条件を目的とするピークの精製に利用できるので、候補タンパクの精製を進めた結果、1つの既知蛋白、2つの未報告ペプチドを同定することに成功し、特許申請の後、論文として投稿し、まもなく掲載予定である(Proteomics2004 in press)。 習慣飲酒により変動することが知られている検査項目は多岐にわたる。広く利用されているγ-GTP(GGT)、近年欧米で多用されている糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)のいずれにも、いわゆるnon-responderが存在する。今回見出された新規マーカーはγ-GTPのいわゆるノンリスポンダーにおいても有意な変化がみられたので、従来のマーカーでは検出できない常習飲酒家のスクリーニングへの応用も可能と思われるが、そのためにはELISAなどより簡便な測定系が必要となる。現在モノクロナール抗体の作成を終え、アッセイ系の構築を行うと同時に、血清への出現機序の検討も行っている。 プロテインチップテクノロジーは分子量一万以下の低分子量蛋白の検出にはきわめて威力を発揮するが、高分子蛋白の分析においては予想以上の問題点があることがわかった。そこで従来の2次元電気泳動も併用してプロテオーム解析を進めることとし、外科的切除術が施行された大腸癌組織と非癌部の発現蛋白のdifferential displayを行った結果、あらたな腫瘍マーカー候補を見出した(Clin Cancer Res 2004 in press)。
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