研究概要 |
ヒト肝アルギナーゼ結合蛋白を白血球から精製し,N末端残基からのアミノ酸配列を解析したところ,myeloid related proteins(MRPs)と同一蛋白であった。MRPsはMRP8とMRP14の二種類から構成され穎粒球内にそれぞれ単独で細胞内に発現するが,拒絶反応を含む急性炎症の際には,これらのサブユニットが会合したMRP8/14が極めて早期に,かつ大量に生成し,生体防御に重要な役割を果たしている。このMRP8/14がカルシウム存在下においてアルギナーゼと特異的に結合し,分単位でMRP8/14・アルギナーゼ複合体を形成することを初めて発見した。従って,アルギナーゼとMRP8/14の変動を比較検討することはMRP8/14の生理学的意義の解明にとって重要な鍵となる。そこで,アルギナーゼおよぴMRP8/14に特異的なモノクローナル抗体を作製し,ELISAの構築を試みた。まず,アルギナーゼに対するELISAを構築し,報告した。次に,MRP8/14に対するELISAを開発し,これらの方法を肝移植患者及び生体小腸移植患者の血清に応用し,新しい早期炎症マーカーとしての有用性について検討した。なお,本法は数時間以内に1ng/ml以下のMRP8/14を特異的に測定できる優れた方法であった(現在,Clin Chemに投稿中)。肝移植患者の死亡例において,MRP8/14とアルギナーゼは共に著しく変動し,またアルギナーゼ,AST, ALTなどの上昇に比べて0〜7日ほど早く血中に出現する傾向を示すことを見い出した。また小腸移植例(死亡例)において,とくに末期にMRP8/14は著しく上昇したが,アルギナーゼはほとんど上昇しなかった。このように,アルギナーゼとの併行測定は拒絶反応の起源を判別する上で臨床的に有用であることが明かとなった。移植医療において,MRP8/14がAST, ALT,及び炎症マーカーであるCRPよりも早く血中に出現する傾向が示されたことは拒絶反応を含む炎症反応の早期シグナルとしての可能性を示す重要な手掛かりになると考えられた。アルギナーゼ・MRP8/14の移植患者への臨床応用に関する報告は初めてである。
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