橋本病患者の約2割は角結膜炎、口内乾燥症などのシェーグレン症候群を合併するが、なぜ合併するのか全くわかっていない。ヨードシンポーター(NIS)が甲状腺のほか唾液腺にも発現していることに注目し、NISをマウスに免疫することにより、甲状腺炎および唾液腺炎を発症するかを調べ、ヒトにおける自己免疫性甲状腺炎(橋本病)および自己免疫性唾液腺炎(シェーグレン症候群)、特に両者の合併例におけるNISの病因的役割を明らかにすることが本研究の目的である。NISを高発現した293細胞をmitomycin C処理で増殖しないようにした後、TiterMax Gold AdjuvantないしComplete Freund's Adjuvantと混和し、CBA/Jマウスに投与したグループと、Th1サイトカインを誘導することより甲状腺炎を増強すると予想されるIL-12をNIS発現293細胞と一緒に投与したグループで、NISを発現していない293細胞で免疫したコントロールグループと比較し検討した。予想に反し、すべてのグループにおいて甲状腺および唾液腺にリンパ球浸潤などの炎症所見が認められなかった。また、NISに対する抗体をヨード取り込みの阻害活性およびradioligand assayで検討したところ、すべてのグループにおいて検出できなかった。以上のことよりNIS発現293細胞を用いた免疫方法では自己免疫反応を起こすには十分ではないと判断した。近年、DNAで直接マウスを免疫するGenetic Immunizationが行われつつある。NIS同様膜たんぱくであるため、自己免疫反応を誘導するのが困難であったTSHレセプターをGenetic Immunizationすることにより甲状腺炎を誘導できたとの報告が最近された。今後、NISをGenetic Immunizationすることにより、甲状腺炎および唾液腺炎が誘導できないか検封する予定である。
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