研究概要 |
日常検査情報を多変量的に解析することで、基準範囲の設定を可能とする"潜在基準値抽出法"を1996年に考案、昨年度の研究で、より適切な基準個体を選別すべく、(1)健常限界値の登録を可能とし、それを超える異常値を持つ個体を全計算から除外する、(2)異常値の少ない20代から段階的に基準範囲を求める、(3)年齢フィルターを設定しデータ数の多い年代のデータを無作為に除外する、などの改良をプログラムに加えた。今年度は、それを用いて、岡山県の主要4病院の日常検査情報からALP, LDなど標準化された臨床検査値の年代別基準範囲を設定した。その結果、施設の患者特性によらず、求まった年代別基準範囲は同様の経年変化を認め、それを統合することで、同県の統一基準範囲とした。また、良く精度管理された小児の10年分の大規模な日常検査情報から、小児の基準範囲を1才毎に連続的に設定した。その結果、多数の生化学項目でそれぞれに特有の経年変化を認め、そのプロフィールは、成書に記された既知の測定値の経年変化とよく合致した。これらの結果から、今回開発した改良潜在基準値法のプログラムは、広い年齢層に対して的確に機能すると判断された。一方、慢性腎不全患者の人工透析前後の大規模な検査情報から主要な生化学検査値を元に、特異な測定値を有する個体を"潜在異常値除外法"(当該項目以外の検査項目に特異な値を有する個体を除外する方法で、本来は、健常集団からうまく潜在異常個体を除外する方法論)で除外し、いわゆる疾患固有の基準範囲の設定を試みた。同様に、診断が未確定な症例も含むSLEの臨床診断を持つ700例余りの症例群の血清蛋白18項目の検査値から、いわゆる疾患の標準値を設定する試みに挑戦。今回のプログラムで算出された、SLEの各々の標準値は、それぞれ経験を積んだSLEの臨床家が納得する値であると評価された。
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