日常検査情報を多変量的に解析することで、基準範囲の設定を可能とする"潜在基準値抽出法"を1996年に開発した。同法では、他の検査項目の基準範囲初期値を除外規準に、そのいずれかを超えるデータを持つ個体を除外して基準範囲を設定、それを全項目平行して行い基準範囲を更新する。この過程を繰り返し、各基準範囲を少しずつ相互に補正して最適化する。しかし、同法は基準範囲の初期値が悪いと設定が偏ったり、年齢分布が高齢に偏りやすいなどの問題があった。そこで本研究では、(1)健常限界値の登録を可能とし、それを超える異常値を持つ個体を全計算から除外する、(2)異常値の少ない20代から段階的に基準範囲を求める、(3)データ数の多い年代のデータを無作為に除外するなどの改良を行った。また年齢層別に基準範囲(臨床検査値の加齢変化)を求めるプログラムにも同様の改良を行った。応用として、岡山県の主要4病院の日常検査情報から標準化された臨床検査項目の年代別基準範囲を設定したが、施設によらず、基準範囲は同様の経年変化を示した。また、大規模な小児の日常検査情報から、主要な臨床検査項目の基準範囲を1才毎に設定したが、どの項目にも特有の経年変化を認め、そのプロフィールは、既知の測定値の経年変化とよく合致した。検証のため、本法を用いないで求めた場合と比較したところ、明白な違いを認め、異常値の除外アルゴリズムが的確に機能していると解釈された。これら結果から、今回開発したプログラムが、広い年齢層のデータに対して的確に適用できると判断された。一方、慢性腎不全患者の人工透析前後の大規模な検査情報を使い、同様のアルゴリズムで特異な測定値を有する個体を除外することで、基準範囲の設定を試みた。その結果、臨床家の日頃の感覚とよく合致した基準範囲が得られ、同プログラムを、いわゆる疾患固有の基準範囲の設定にも応用可能と考えられた。
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