本研究の目的は、日本と米国の看護職者に対する医療事故防止プログラムの開発に関する類似点と相違点等を明らかにすることである。 両国とも看護職者が関与した医療事故に関する諸問題に対する方策は類似していた。一番異なるのはリスクマネジャーの役割である。日本のリスクマネジャーの役割は医療事故防止に集約されているのに対し、米国のリスクマネジャーは、リスクマネジメントを行なう専門職として位置づけられている。同国のリスクマネジャーは、医療事故にとどまらず、リスクの把握と分析、損失管理、およびクレーム処理とリスク財務等を担当している。したがって、同リスクマネジャーには、病院管理や診療のあり方につき、改善の提言ができるような権限が付与されている。 日本の多くの医療施設は、看護管理者に対し、リスクマネジャーとしての役割を任命している。リスクマネジャーとして任命された看護管理者に対し、リスクマネジャー会議の定期的な開催やヒヤリ・ハット事例の分析、具体的な医療事故防止策の検討などを通して、リスクマネジャーとしての役割認識を高めるプログラムを実践したところ、与薬に関する事故レベルが低下する可能性が示唆された。さらに、リスクマネジャーが各ナースステーションで、他の看護職員とともに事故防止目標を設定し、看護職員全員が目標を認識および達成できるよう努力する体制作りも重要であることが明らかとなった。 また、看護ケアにおいてもさまざまな医療機器を用いるが、医療事故防止においては医療機器の管理も重要である。ここ数年、看護職者が関与した医療事故訴訟において、刑事責任も問われるようになってきている。 医療事故防止のためにはさまざまな取り組みを他の医療従事者とも協働して行なう必要がある。看護職者には、より高度の看護基準を維持・向上していくための日常的な活動と責任が求められている。
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