カンボジアでは1996年からディストリクト・ヘルスシステムの改革が始まった。Operational Districtと呼ばれる保健行政区が設置され、無料だった診療に利用者負担が導入された。本研究の目的は、保健制度改革の貧困層に対する影響を検討するため、改革後の住民の受療行動を記述し、貧困層と非貧困層の受療行動を比較することである。 調査地はカンボジア南西部のカンダール県ルーク・ダエク郡プレクダイ保健センター管轄地域である。無作為抽出により350世帯(世帯の12%)を抽出し、リプロダクティブ年齢(15-49歳)の主婦を対象に、構成的質問紙を用いた面接調査を実施した。この内未婚、不在等を除く257人を分析対象とした。貧困層の判別には、住居の床面積と家財所有点数を用いた。また医療サービス選択の理由を確認するため、保健センター利用者及び非利用者を対象に、FGDを実施した。 257世帯中242世帯に、過去30日以内に病気のエピソードがあった。対象者の家族1547人の内病気のエピソードを有した者は677人で、この内649人が受療行動を起こした。第一行動で最も多かったのは家庭療法(71%)、次いで自己投薬(50%)であり、両者を併用する者が多かった。公的医療機関の利用率は10%未満であった。第一行動で治癒した者、調査時第一行動を継続中であった者を除く332人が第二行動の対象であったが、この内297人(90%)が実際に行動を起こした。第二行動で最も多かったのは私的医療従事者の診療(37%)であり、次いで自己投薬(33%)、保健センター利用(13%)であった。 貧困層と非貧困層の間で保健センター利用率を比較したところ、貧困層の保健センター利用率が有意に高かった。保健センター利用には主観的重症感、距離も関連しており、貧困層の保健センター利用が高まるのは、2km以内であることが明らかになった。
|