慢性疾患者のHRQOLを総体的に評価するためにTTO法を用いて、その問題点を検討した。すなわち、第1に、慢性疾患患者は今後生きるかもしれない時間に関して、どのようなときに、健康に障害のある時間(年数)を健康で障害のない時間(年数)と交換したい(交換者)、あるいは交換したくない(非交換者)と思うのか、その要因を明らかにすること、第2に、TTO法により交換者のTTO値を算出し、TTO値を低下させる要因を明らかにすること。この2点を明らかにするために、TTO法、半構成的面接法、日本語版SF-36質問紙を用いて入院患者28名、外来患者100名を対象に実証的研究を行った。その結果、次のような点が明らかになった。 入院中の心臓病患者に関して、65歳未満の患者では年齢、身体的自覚症状、ADLの制限、病気によるつらい体験が、TTO値を低下させていた。 糖尿病患者に関して、(1)身体的自覚症状、ADLの制限、病状の悪化や合併症の心配、食事制限や身体的自覚症状のつらさ、SF-36の下位領域の全体的健康感、社会生活機能、日常役割機能(精神)、心の健康などは、健康な生存時間との交換要因となった。(2)年齢、合併症の有無、治療法、血糖値の改善は、健康な生存時間との交換要因ではなかった。(3)糖尿病の合併症は、健康な生存時間との交換要因ではなかったが、交換者のTTO値を有意に低下させていた。(4)患者の家族、仕事、経済などの社会的要因は、健康な生存時間との交換の理由にも、非交換の理由にもなった。 本研究の結果は、従来の報告になかった新しい知見を得ることができた。慢性疾患患者のHRQOLの指標としてのTTO値を低下させるメカニズムの解明と病気と共に長い期間生きなければならない慢性疾患患者のHRQOLを社会との関係性からも検討する必要性が示唆された。
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