本研究は、乳がん患者が術式を選択・意思決定するプロセスとその影響要因を明らかにすることを目的に、18名を対象に参加観察法、面接法によって調査し、記述されたデータを質的に分析した。 その結果、対象の意思決定プロセスの様相には《心理的衝撃》、《現実との対峙》、《意思の明確化》、《個人・環境のしくみ》、《意思決定行動タイプ》という5つのカテゴリーが抽出された。つまり、乳がん患者が乳房切除術か乳房温存術かを選択・決定するプロセスは、病名と手術の適応が医師から告げられた後の《心理的衝撃》体験から始まっていた。そして、患者が《心理的衝撃》を経て意思決定するために用いた対処は、がんと手術を受容する過程を辿り、"生きるためにはどうするか"と自己と向き合う《現実との対峙》と《意思の明確化》であった。《現実との対峙》は<衝撃を和らげる><情報を取り込む><他者の力をかりる><生き方を見直す><問題と向きあう>の5つのサブカテゴリーで構成されていた。患者が行う《意思の明確化》は、<個人の価値・事情>と<乳がん手術ガイドライン>によるものであった。<個人の価値・事情>は、「完治する可能性」「形態機能損失の程度」「家族の希望」「放射線照射可能の有無」「入院期間の長短」であり、<乳がん手術ガイドライン>は、医学基準「腫瘍の大きさ・位置」であった。この《現実との対峙》と《意思の明確化》には、《個人・環境のしくみ》である<態度・知識・能力><医療者側の情報提供のしくみ><ソーシャルサポートのしくみ>が影響していた。乳がん患者が術式を選択・決定するプロセスは《意思の明確化》>《現実との対峙》の特性によって3つの《意思決定行動タイプ》に分類された。 乳がん患者の意思決定を促進する看護として、意思決定に関する患者の希望を確認し、患者個々の対処能力・環境に応じた支援が示唆された。
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