本研究は嚥下障害のある在宅高齢者に対する援助技術を開発することを目的とし、嚥下性無呼吸時間への加齢の影響と嚥下と呼吸の協調に基づく嚥下訓練の効果を検討した。高齢者が5ml水を嚥下した時の、舌骨上筋群表面筋電図と呼吸軌跡が記録された。被験者は60-69歳24人(男性11人、女性13人)、70-74歳23人(男性12人、女性11人)、75-79歳19人(男性8人、女性11人)、80歳以上24人(男性15人、女性9人)の4群に分類された。4群が、呼吸型発現率について母比率の差の検定を用いて比較された。嚥下性無呼吸時間については二元配置分散分析が用いられた。 その結果、60-69歳群に比較して、男性ではその他の群で単独嚥下(1回の喉頭運動で嚥下が終了する呼吸型)の発現率が減少し、女性では70-74、75-79歳群で減少した。嚥下性無呼吸時間(mean±SD)は、男性では60-69歳群0.870±0.14sec、70-74歳群0.957±0.13sec、75-79歳群、0.841±0.08sec、80歳以上群0.952±0.25secであり、女性では60-69歳群0.996±0.19sec、70-74歳群1.061±0.13sec、75-79歳群、0.973±0.15sec、80歳以上群0.905±0.15secであった。嚥下性無呼吸時間は、女性において延長し(p<0.05)、男性女性とも70-74歳群で最も延長した。 次に、嚥下時の呼吸軌跡をバイオフィードバックとして映写した声門上嚥下訓練が実施され、嚥下と呼吸の協調に与える効果が検討された。被験者は、前述した被験者のうち、嚥下造影検査によって気管への誤嚥を認め、研究参加への同意が得られた1名である。実験デザインにはABAB法が用いられ、訓練は1日を1セッションとして5ml水嚥下10試行が、全体で22セッションが実施され、声門上嚥下の遂行数と分割嚥下(2回以上の喉頭運動によって嚥下を終了する呼吸型)の発現数が測定された。その結果、声門上嚥下遂行数を増加させ、分割嚥下遂行数を減少させる効果が認められた。 これらの結果から、在宅高齢者の嚥下障害を予防するためには、70-74歳群に介入する必要があり、嚥下と呼吸の協調に基づく嚥下訓練は嚥下障害のある高齢者に効果があることが示唆された。
|