本研究の目的は、薬物依存症者の回復における入院期間中の看護の意義について、看護者と看護の利用者である薬物依存症者本人の語りにもとづき、明らかにすることである。本年度は、インタビューに向けての昨年度の情報収集や調整を経て、「薬物乱用・依存に関連する問題で精神科病棟への入院経験を有する人」へのインタビューを主として行い、そこで語られたデータの分析を行った。平成14年4月から9月に、ネットワーキングサンプリング法にて対象者にアクセスし、入院期間中にどのような体験をしたかについて、同意の得られた16名にインタビューを行った。インタビューは、関東・東海・関西・九州地区にて行った。同意を得て録音したデータの総録音時間は、約17時間であった。それらのデータを全て逐語記録におこし、データ全体の概観を分析する中で、薬物依存症者にとっての入院期間中の看護の意味は、1回の入院と複数回の入院とでは異なる傾向にあることが推察された。そこで、まず入院体験1回の者のインタビューデータを詳細に分析し、依存症患者本人にとっての入院期間中の看護の意味について考察した。その結果、初めての入院体験のときは現実感を伴わない解離傾向にあり、援助を求めるよりも、今後への不安が先に立つ傾向が強いと考えられた。初めての入院体験は、「ただ薬をだすだけ」といったイメージでもあった。解離し麻痺した感情や、今後への不安に対するケアが重要となると考えられる。この結果に関しては、15年度の精神保健看護学会で発表する予定である。 また、入院期間中の看護の意義を考察するには、社会における薬物依存症の治療や回復支援システムとの関連が重要となる。そこで、昨年度同様、地域での薬物依存症回復支援センターの活動に携わりながら、薬物依存症の回復に関連する諸問題や対処についての情報収集を行った。さらに、日本以外の治療システムに関する情報を得るため、本年度は、サンフランシスコの薬物依存症回復支援の場及びドラッグコート(薬物法廷)を訪問した。日本とアメリカでは、入院の対象となる患者の状態や使用薬物に違いがあることが、訪問中に得た情報から考えられた。
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