日本の精神科看護領域において、薬物依存症患者への看護は、困難を有する課題のひとつである。しかし、薬物依存症者への看護に関する系統的な研究は行われておらず、現状の看護の意義や限界も追究されていない。 目的:「薬物依存症での入院体験を有する人」と「薬物依存症者への看護体験を有する看護者」の両者にインタビューを行い、それぞれの体験を描き出すともに、「薬物依存症者の回復における入院中の看護の意義・限界」について考察する。 方法:半構成的インタビュー法。「薬物依存症での入院体験を有する人」及び「薬物依存症者への看護体験を有する看護者」に、社会的ネットワークを通じてインタビューへの参加を依頼し、同意を得られた人にオープンエンドでインタビューを行った。インタビューは同意を得て録音して、逐語記録を作成した。データは、帰納的に分析した。 結果及び考察:インタビュー参加者は、「薬物依存症での入院体験を有する人」(以下、前者)が16名、「薬物依存症者への看護体験を有する人」(以下、後者)が12名であった。両者の語りには、類似したテーマがあった。それは、「傷つき」「孤立無援」「恐怖」「無力」などを感じさせるような体験であった。そして、「うれしさ」を感じさせるような体験は、前者にとって「見捨てられなかった」と感じるような体験であり、後者にとって「長いプロセスを通しての患者の変化」を感じるような体験であった。それは、「見守られる」体験であり、「見守る」体験ともいえる。また、前者にとって「話をきいてもらう」といった体験や、後者にとって「話をきく」という体験も、回復過程において意味ある出来事として語られた。以上から、入院期間中において、両者の「感情」に着眼し、「見守る」・「話をきく」といったケアは、回復過程に意味があると考える。尚、今回の報告をふまえ、さらに考察を深めることを課題としている。 また、本研究に関連して、海外及び近隣地域における薬物依存症からの回復支援に関する調査を行った。
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