この研究の目的は、日本における人工透析技術の開発利用の歴史的発展について社会史的な見取り図を描くとともに、人工透析医療の現状およびその問題点について検討を行うことである。そのさい国際比較の観点を重視する。将来的には、このパイロットスタディーを土台として、医療関係者を巻き込んだ共同研究を組織する構想をもっている。 この研究は3年間にわたって実施された。その間に実施した主な作業は、次の4種類に分けられる。第1は、文献調査である。そのために、日本透析医学会および日本腎臓病学会の双方に入会し、その和文・欧文の専門雑誌について、サーベイを行った。また同時に、人工透析関係の記事が掲載される種々の医学雑誌、たとえば『腎と透析』、『メディカル・エンジニアリング』などについても、サーベイを行った。さらに図書や報告書類についても収集を進めた。第2は、日本透析医学会等の関連学会の年会・研究会等に出席し、研究課題に関連する報告を聞き、また意見交換を行った。第3は、神奈川県川崎市の虎ノ門病院分院の医師等からの聞き取りである。ただしこれは予備的な性格のものであり、アーカイブとなるような記録は作成しなかった。第4は、海外透析施設の視察である。これは国際比較のために不可欠の作業である。 以上の4種類の作業の成果を、以下に5点にわけて箇条書きとする。第1に、日本の人工透析および腎移植に関するデータを収集することができた。その一部を、冊子体の研究成果報告書に転載した。第2に、人工透析が技術面でも意識面でも、かつての実験的な高度医療から、標準的業務を中心とする一大産業へと変容している状況を把握できた。第3に、コスト削減のための種々の手法が導入され、あるいは導入が検討されている状況を把握できた。第4に、透析医療の患者リスクが高く、将来的な増加も懸念されている状況を把握できた。第5に、以上に述べたような動きは基本的に先進国共通であり、特殊日本的なものではないことが確認できた。
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