2001年10月、米国で炭疽菌が手紙で送りつけられる事件が頻発した。いわゆるバイオテロの発生だ。この事件の解明は現在進行中だが、あらためて生物兵器用病原体としての炭疽菌がクローズアップされた。この病原体はかつて日本の生物兵器部隊・満州第731部隊で研究され、生物兵器化されていたものだった。その研究、特に人体実験を伴ったそれ、のデータは標本そのものと文書化されたものが、戦後部隊員の戦犯免責と引き換えに米国に渡った。今回その文書のひとつで、炭疽菌の人体実験を記述した'The report of A'その他の資料の分析を行った。その結果分かったことは、731部隊では生産する細菌の量を重量で量り、数で数えないと言われ、その研究水準の低さが言われていたが、実際には1mg=10^8(1億)個という変換式を持っていた。この変換式は、同部隊が炭疽菌の兵器化にあたり、現在と同程度の「微小化」する技巧を持っていたことを示している。今回の米国での炭疽菌攻撃は、この微小化された細菌を手紙で送りつけ、呼吸器からの感染を可能としている。731部隊でも炭疽菌を呼吸器から感染させたかったが、成功していない。何故できなかったのか、その解明は日本陸軍の科学技術構造を考える上で重要なポイントと考えられる。科学技術の研究開発の間題では、成功例よりも失敗例を検討することがより重要な情報が得られることが多い。これもそうした例となる可能性がある。
|