本研究は、常圧・低酸素環境下の持久的トレーニングによる骨格筋酸素供給系の適応性変化について解明することを目的とした。実験には12週齢のWistar系雌ラットを用い、それぞれ、対照群(CNT)、トレーニング群(TR)、コバルト投与群(Cob)、およびコバルト投与中にトレーニングを行う群(CoTR)の4グループに分けた。塩化コバルトは0.01%の濃度で飲水中に混ぜて5週間投与した。トレーニングは小動物用トレッドミルを用いて、25m/minで20%勾配、週5日の走運動を1日10分間から開始し、3min/dayの割合で運動時間を漸増し、5週間負荷した。Hb濃度はCob群及びCoTR群でCNT群に比べ約25%有意に増加した。Cob群では、横隔膜だけで全毛細血管密度及びC:F比の有意な増加が観察された。TR群ではヒラメ筋と足底筋において毛細血管数の有意な増加と細動脈側毛細血管数の増加および細静脈側毛細血管数の減少が観察された。CoTR群でもこれと同等の変化が観察されたが、足底筋においてはTR群よりも毛細血管数が有意に増加していた。VEGFに陽性反応を示す毛細血管の密度は、ヒラメ筋においてCNT群に比べ他の3群で高い値を示したが有意な差はみられなかった。また、TGF-β1に陽性反応を示す毛細血管の密度にも有意な変化がみられなかった。代謝酵素活性ではTR群とCoTR群でほぼ同等の変化を示し、有酸素代謝系酵素の有意な活性増加と無酸素系代謝酵素の僅かな低下が観察された。ヒラメ筋において、type-I線維の有意な減少とtype-Iia線維の有意な増加がCo群とCoTR群に観察された。また、足底筋においてはCoTR群だけにtype-Iia線維の有意な増加が観察された。以上の結果から、コバルトによるoxygen-sensing mechanismの活性化によって呼吸筋での酸素供給系の改善が促進され、また下肢筋群では運動に伴う血管新生がさらに促進されることが示唆された。
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