これまでの実験研究 実験1. 一般的に臓器組織の成長は臓器をつくる細胞の肥大と細胞の増殖によってもたらされる。骨格筋の場合も同様である。運動による骨格筋の成長は細胞の肥大によるものと考えられてきたが、著者らの実験はこれまでの説を否定するものである。腱切除法により代償性肥大を誘導し肥大筋と対照筋から筋繊維を単離し、それぞれの細胞の核と容積を測定した結果、骨格筋の細胞核当たりの容積は肥大筋も対照筋もほぼ同じであった。すなわち、細胞核になるべき核の増加が細胞肥大には必然的であることが判明した。従ってこれまで筋細胞の肥大は筋細胞を構成するタンパク質の合成が分解を上回ることによっておこるとされていたがこの説には核が予め存在して起こることが必須条件である。即ち、細胞の肥大は細胞増殖と同様に既存の筋細胞以外からの細胞の融合あるいは核の融合によって起こることが判明した。 実験2. 上記実験をふまえ骨格筋肥大時に増加する核の由来について検討した。これまで研究室で行って来た筋肥大の研究で分子量64kDaのタンパク質が特異的に増加することを発見した。このタンパク質はアルブミンとほぼ同じであることが化学的・免疫学的実験から明らかにした。これまでアルブミンは肝臓でつくられるものと考えられてきたが、筋細胞でもつくられ、肥大筋でその量が多いことから、肝臓細胞が血液を介して筋組織に浸潤する可能性が示唆された。この仮説は筋への機械的伸展刺激がストレスとなり肝臓から細胞が剥がれ、血液に入り、筋組織に浸潤するというものである。そこで、最初の実験として肝細胞が筋細胞に融合することを確認するために、同腹のマウスを6匹用い、1匹のマウスから肝細胞を分離し、ダピ染色を施した後に、その細胞を5匹のマウスの筋組織に移植した。その結果、筋細胞の中にダピで染色された核が多数観察することが、肝臓からの細胞が筋肥大に関与する可能性が示唆された。
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