運動によって骨格筋が肥大することは良く知られているが、その肥大機構については今だ明らかではない。骨格筋肥大は基本的に筋組織を形成する筋細胞の肥大と増殖によって起る。筋細胞の増殖は各種成長因子によって誘導されることが知られている。これまで増殖よって筋細胞の新たな形成が起り、その元となる筋原細胞はサテライト細胞であることが明らかにされている。しかしながらサテライト細胞は加齢に伴い減少するにも関わらず、高齢者のレジスタンストレーニングでも肥大効果が認められることから、サテライト細胞以外の筋原細胞の存在が示唆されていた。 そこで著者はサテライト細胞以外の筋原細胞の由来と役割について、その可能性について検討した。第一章ではこれまでほとんど観察されなかった、筋繊維の肥大に着目して研究を行った。実験の結果、明らかに筋繊維の肥大、長さの増大、細胞核の増加が観察された。しかしながら、細胞核当たりの細胞質の容積は対照群も肥大群もほぼ一定の割り合であった。骨格筋繊維は形成された後、分裂し増殖することがないことから、サテライト細胞あるいは他の筋原細胞が融合した結果、核が増えたものと考えられる。第2章では筋組織の新たな形成と筋原細胞由来について検討した。運動に伴い明らかに筋繊維の崩壊が進行し、筋組織の新たな形成が始まることが生体染色法によって明らかにした。筋原細胞由来については筋細胞特有の転写因子であるmyogeninの陽性細胞を観察することによってその由来を観察した。観察の結果、myogeninの陽性細胞は血管内と血管外周辺に観察され、血液を介して筋組織に運ばれる可能性を示唆した。また、肝細胞で特異的に発現し、分泌するアルブミン陽性細胞が同じく筋組織で観察された。これらに実験から肝細胞あるいは肝幹細胞が筋原細胞と機能することが示唆された。第3章では遊泳実験を現実的な運動形態をモデルとして用い、肝細胞あるいは肝幹細胞が肝臓から剥離し、肝臓重量にどのような影響をおよぼすのかそれを確認するために実験を行った。その結果、明らかに長期間の遊泳運動に伴い、肝臓の重量は低下し、抗重力筋であるヒラメ筋は重量は増加した。以上のような結果から運動に伴い、肝臓は筋肥大や再生時に細胞を筋組織に供給し、運動に適応した筋組織つくりに重要な役割をになっているものと思われる。
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