本研究の目的は剛体リンクモデルに基づいて従来の方法により求められた肩関節の角度が、上肢帯と上腕骨の間の本来の関節角度を反映しているか確認することであった。そのため、通常の動作分析で用いられる肩峰点や橈骨小頭に加え、肩甲骨下角、肩甲棘内側縁、鎖骨胸骨端、鎖骨肩峰端、胸骨剣状突起、胸骨柄、第七頚骨突起の皮膚上にもマークを貼付し、6台の赤外線カメラからなる3次元動作解析装置を用いて、50Hzで13歳男子のクリケット投手10名の投球動作を解析した。二つの方法による差の検討のため、胸骨両端および頚骨(C7)で規定される線分に垂直な線分を仮想肩セグメントとし、両肩峰点を結んだ線分とのなす角度を求めた。 右足の接地時では両者の間に相関係数0.97の良い一致が認められ、この傾向は最終左足接地時まで続いていた(r=0.89)。しかしながらボールリリース時には従来の方法では体幹部の捻転を過大に評価する傾向にあり、胸郭の運動から推定した方法との間で平均約10度の相違が認められた(r=0.58)。投球動作中の肩甲骨と上腕骨の間の角度変化は、剛体リンクモデルに基づく通常の動作分析によって求められたいわゆる「肩関節角度」の変化に比べ小さいことが推定された。 以上の結果から、従来の両肩峰点を結んだ線分により肩の動きを評価する方法は、バックスイング期からコッキング期に相当する比較的動作スピードの遅い時期では実際の上肢帯の動きをよく反映するが、リリース前後の激しい動きについては必ずしも肩甲骨と上腕骨の位置関係をよく表しているとは言えないことが明らかになった。 投球動作にともなう肩関節障害の原因を究明する場合には、従来の方法に加えダイナミックな運動中の骨や関節の運動を正確に求めることが必要であり、動作中の皮膚上のポイントと骨のランドマークとの相対的な位置関係を補正する方法の検討が今後は必要であると考えられる。
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