【目的】潜水時に心拍数が低下する"diving reflex"は、顔面の三叉神経への冷却刺激による副交感神経亢進がその原因の一つとされている。一方、動的な運動開始直後は副交感神経が急速に抑制されて心拍数が急増するが、気道も反射的に拡張して換気亢進を促進する可能性が示唆されている。本研究では顔面冷却によって自律神経系を変化させた場合の、運動開始直後の循環動態と換気動態の関連性について明らかにすることを目的とした。 【方法】健康な成人男子8名に、30秒の椅座位安静の後、氷水の入った氷枕(表面温度:3〜5℃)を前額部と瞼、左右の頬上部に置き、そのまま安静状態を100秒間保つFC(Face Cool)条件、安静状態を90秒保った後に両脚交互の伸展-屈曲運動を20秒間実施するEX(Exercise)条件、安静30秒後にFC条件と同様に氷枕を置き、その60秒後にEX条件と同じ20秒間の運動を実施するCM(Combine)条件の3つの条件を各4回ランダムに実施した。心拍数、毎分換気量、平均血圧を連続的に測定し、3条件で比較した。 【結果】顔面冷却を開始後60秒で安静時心拍数が3拍程度有意に低下するが、安静時毎分換気量には有意な変化は認められなかった。運動開始とともに心拍数及び毎分換気量は急増するが、その増加の程度は顔面冷却しない時(EX)に比べ冷却時(CM)に有意に低値を示した。平均血圧は運動中に一過性の減少が見られるが、安静、運動とも冷却による影響は認められなかった。 【結論】副交感神経を活性化させて運動させると、運動開始直後の換気と心拍応答は抑制されることが明らかとなった。このことから、循環系を人為的に通常と異なる状況にした場合、安静時の換気と心拍応答は独自性があるが、運動開始直後の換気と心拍応答には類似性があることが示唆された。
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